うつ治療を見直すA 考えの偏り 改める療法

201055   提供:読売新聞

 3年前、東京都の文具店で派遣社員として働いていた女性(32)は、リストラで社員が減り、商品の発注から万引き対応まで、数人分の仕事を1人でこなした。

 大きなストレスがのしかかり、やがて頭痛や吐き気など体の不調が起こった。仕事中、突然涙が止まらなくなったりもした。

 銀座泰明クリニック(中央区)で、軽いうつ病と診断された。抗うつ薬を飲みながら、一時休んだ仕事を再開。しかし周囲の状況は変わらなかった。

 仕事中、気力がなえて立っていられず、店の隅で何度も座り込んだ。客と話すのもつらくなり、ついに仕事を辞めた。働けない自分を責め、うつ症状は悪化、家に引きこもった。

 そこで、同クリニック院長の茅野分さんから、考え方の偏りを治す「認知行動療法」を勧められた。軽度から中等度のうつ病で薬物治療と同等の効果があり、かつ再発しにくい。薬と併用すると、より治療効果が高いという研究もある。

 根拠もないのに思い込む、短絡的に結論づける、すぐに自分を責める--などの傾向がある人は、特に効果が期待できる。

 女性はまず、家で過ごす時や外出した時などに、日々の行動、その時の気分、頭に浮かんだ考えをノートに詳しく書き留めた。月2回の認知行動療法で心理士にノートを見せ、話をする。

 マイナス思考になっていると、心理士が「別の見方、考え方はできませんか」と問い、一緒に考えていく。

 たとえば、女性は仕事を辞めてからも毎朝8時に起きていたが、「遅すぎて恥ずかしい」と感じていた。その理由を聞かれると、「社会人は6時に起きて働くべき。できない私はダメ人間」と答えた。

 「毎朝決まった時間に起きているのだから、むしろ褒められてもいい」。心理士の助言に、女性はハッとした。「私は悪くないんだ。思い込みだったんだ」

 治療を続けて次第に気力が戻り、1年もすると抗うつ薬がいらなくなった。「うつ病は、自分の考え方のクセを知り、向き合うことで治ると実感した。薬でごまかしていたら、回復できなかったかもしれない」

 認知行動療法は先月から、医師が行う場合は健康保険が使えるようになった。しかし、専門知識のある医師は少なく、治療を受けられる施設は限られる。

 慶応大保健管理センター教授の大野裕さんは「心理士や看護師らも取得できる認知行動療法の公的資格を作り、薬以外の治療の選択肢を早急に広げる必要がある」と訴える。


m3.com 医療ニュースより引用させていただきました。


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