うつ治療を見直す@ 自殺の陰に過剰な投薬

201054   読売新聞

「その瞬間は記憶がなく、気づいたら病院でした」

 東海地方の女性(24)は昨年、自宅2階のベランダから飛び降り、全治3か月の打撲傷を負った。

 気分の落ち込みが続き、精神科を受診したのは19歳の時。抑うつ状態と診断され、抗不安薬と睡眠薬を飲んだが改善しない。抗うつ薬が追加され、他の薬の数も増えていった。

 生理が止まり、乳汁が出た。衝動的になり、自宅で物を投げるなど暴れた。幻聴や被害妄想も表れた。パーソナリティー障害、不安障害、統合失調症……。病名が次々と増え、入退院を繰り返した。「死にたい」が口癖になり、ベランダから飛び降りた頃は、1日20種類前後の薬を飲んでいた。

 抗うつ薬の使用説明書には「24歳以下の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告がある」と記されている。だが女性は「医師から説明を受けたことはない」と振り返る。

 女性は医療機関を替え、薬を減らして回復。今は、ごく少量の抗不安薬と漢方薬の服用で元気に暮らす。

 主治医の牛久東洋医学クリニック(茨城県牛久市)院長、内海聡さんは「最初の抑うつ状態は家庭内の不和が原因。そこに全く手をつけず、過剰な投薬で様々な精神症状を生み出した医師の責任は重い」と語る。

 自殺者は昨年も3万人を超えた。国の調査では、亡くなる1年以内に精神科を訪れた自殺者は、調査対象の半数に上る。早めに精神科を受診し、適切な治療で死を思いとどまる人も少なくないが、必ず救われるとは言えないのが現状だ。

 さらに、治療の不適切さもある。全国自死遺族連絡会が会員約1000人に行った調査では、最も衝動性が高い「自宅からの飛び降り」で死亡した72人は、全員が精神科に通院中で、1日15-20錠前後の薬を処方されていた。

 同会の田中幸子さん(61)も5年前、薬の怖さを実感した。警察官の長男が過労の果てに自殺し、「眠ったら息子に悪い」と、葬儀後も自分を責めて不眠に陥った。精神科を受診し、睡眠薬を処方された。

 「寝ない!」と抵抗する心身を、睡眠薬でねじ伏せようとした。すると、眠くなる前に感情が高ぶり、記憶が途切れた。後から聞くと、大きなソファを放り投げてしまっていた。

 内海さんによると、睡眠薬で酒酔いに似た状態になり、感情が抑え切れず爆発してしまう人もいる。「不眠の原因を探り、癒やす治療をしなければ、睡眠薬ですら、思わぬ行動の引き金になる」と警告する。


m3.com 医療ニュースより引用させていただきました。


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